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ベンチャー企業の資本政策のイロハ

IPOやBuyOutを目指す経営者の方から、「どのような資本政策がいいでしょうか?」という質問を受けることが多々あります。資本政策は、経営者の考え方により大きく異なり、何が正解ということはできませんが、それでも、どうすればいいのだろうという悩みをよくお聞きします。

以下に記載することを遂行することが常に正解とは限りませんが、意味を理解することで参考の一助となればと思います。そこで今回は、資本政策作成時において、よく質問される項目について、筆者の思うところを主観的にはなりますが、そのポイントについて説明していきます。

経営者または安定株主の議決権比率はどのくらいが目安か?

  • 会社法において、議決権比率により、行使できる権利関係などが異なります。
  • 90%以上保有していれば、少数株主を排除できるスクイーズアウトが可能
  • 2/3以上保有していれば、定款変更、企業再編などの特別決議が可能
  • 1/2超保有していれば、役員選任、配当決議などの普通決議が可能
  • 1/3超保有してれば、特別決議の否決が可能
  • 10%以上保有していれば、大株主と言われ、会社解散の訴えの提起が可能
  • 3%以上保有していれば、帳簿閲覧などが可能
  • 1%以上保有していれば、株主総会での議案提案が可能

となることが、ポイントになります。

考え方や事業成長のスピードにより異なりますが、IPO前までは、できれば1/2超、少なくても1/3超は保有しておきたいところと思います。

IPO後においては、公募や売出を行った結果、流通株式比率として25%や35%が求められるため、一般株主が相当数となるため、経営者の議決権比率がこれよりも低下しても、業績が順調に推移していれば、実務的には問題となることは少ないものと考えます。

これらを考え、各ステージでのファイナンスの規模や切り出す増資の比率を検討していくことが必要となります。

ベンチャーキャピタル(VC)などの外部株主を入れるべきか?

会社を設立時には、経営者1人又はごく少数であることが多いと思います。業績が順調に伸びて、成長を加速させる場合には、まずは、自己資金、次に国民金融公庫などの借入金で資金調達することが多いと思います。ほとんど会社については、IPOを目指す訳ではないので、メガバンクや信用金庫からの借入金により、資金調達することになると思います。

一方で、IPOやBuyOutを目指す経営者においては、短期間で事業を成長させたいと考えていることが多く、外部株主やVCをどのタイミングで入れるべきなのかと考えることがあります。

個人的には、

「VCなどを入れることは経営者自身のペースでやりたいことが出来なくなる可能性もあるので、どうしても入れる必要がなければ入れるべきではなく、入れるのであれば覚悟を決めてください」とお話しすることが多いです。

ただ、「相性の良いVCなどを入れることにより、より視座を高く持つことができる。競争環境の早く激しい事業領域においては仲間作りもでき、事業進捗において邪魔をされづらくなるため、タッグを組むことは重要」とお話しすることもあります。

いずれにしても、経営者の方がどのようなペースで、経営者自身の実現したいことは何かによるものと思います。

最近では、同じ事業ドメインであり、競争環境が厳しい場合には、日米問わず、如何に資金力が豊富、事業支援体制が強固、VC業界における立ち技や寝技なども含め、影響力のあるVCにいち早く出資してもらい、その後の成長ステージにもフォローアップしてもらうことができるような応援団を構築することも重要なポイントとなっている気がします。

複数経営者での起業はどうか?

起業は1人で行うことが多いですが、2人又は3人の仲間で起業することもあります。

過去の経験上、ユーザーベースやcolyのように複数経営者であっても、上場を果たした会社もあります。

一方で、起業から順風満帆に事業が軌道になることも多いとは言えず、悪い時には仲違いも生まれやすく、関係性がブレイクすることも多いです。特に、仲の良い友達であればあるほど、友人関係も崩れてしまうことも多く見受けられます。

どんなに仲が良くても2人は必ずブレイクする、3人であれば・・・ということも聞きますが、1人であれば全て自分の責任で、他人のせいにすることができません。複数であれば、自分の責任ではなく、他人の責任としたくなるということなのかもしれません。

創業期においては誰(属性)を入れるべきか?

創業期においては、起業家自身の資金に限界があることも多く、お金を入れてくれるのであれば、誰でも良いということがあるかもしれません。

反社会的勢力や反市場的勢力はもっての外ですが、ベンチャー界隈での評判が悪い人だけでなく、評判を聞かない人についても、注意をして選定していくことが必要と考えます。

実際に、

  • ユーザーを株主に入れたばかりに、事業への口出しを過剰にしてきたケース
  • 出資をしたことがない人が損をした時に怒り出すケース
  • 経歴がピカピカである人が鳴り物入りで入社する際に、生株式を要求し、すぐにやめてしまうケース

などを見かけます。

生株式は取り戻しにくいことは頭の中に入れておくと良いと思います。

誰を入れれば良いかは、

  • 創業からのコミットしているメンバーで裏切られても諦めのつく人
  • 事業の成長ために必要と考えられる人
  • ベンチャー投資に慣れている人で評判の悪くない人

などを入れると良いかと思います。

各ステージ(アーリー、ミドル、レイター)ではどのくらい増資をすれば良いか?

ビジネスモデルから、事業立ち上げ当初から相当な資金が必要となる場合、VCによっては、シリアルアントレプレーなどに対しては、一蓮托生とばかりに、「30%入れます」というところもあり、これはこれで、ある一定の理には適っていると思います。

ただ、一般的には、経営者の議決権比率も一定比率は維持することが経営の安定上、望ましいのであれば、IPOまで3~4回のファイナンスを行うのであれば、各ファイナンスのタイミングで、10~15%程度に抑えておくことが理想的ではあると思われます。

これは、絶えず資金調達を行っている状況は健全とは言えないものの、各ファイナンスで2年程度の資金を確保しつつ、バリエーションも逓増的に増加させていくことが、各ステージで新規投資家がある程度のリターンも得られる状態となりやすいので、入ってきやすいことともリンクしてくるかと思います。

事業会社からのCOO、CFO、CTOにはどのくらいの生株式やSOを付与すべきか?

経営者の考え方一つで増減しますが、

創業メンバーは、1%~20%(共同創業の場合)のレンジを見受けます。

VCからファイナンスを受けている場合には、SOプールは10%、多くても20%程度を上限とされることが多く、経営幹部層だけでなく、一般社員にも薄く広く配ることも考えると、

創業メンバーではないCOO,CFO,CTOについては、リターンと経営参画意識の醸成のため、1~5%程度が望ましいかと考えます。

ただし、IPOなどのEXIT時のバリエーションの多寡により、手にすることのできるリターンが異なるため、比率は大きく異なると思われますが、時価総額100億円程度を目指すベンチャー企業が多いため、上記の比率が一つの参考になるかと思います。

生株式またはSOを付与すべき人とは?

生株式とSOとは経済的効果は同じようなものですが、

  • 議決権の有無
  • 取り戻せるか否か
  • 消却できるか否か
  • IPOとM&Aの時の行使のしやすさ

などで異なります。

このため、属性により、

  • 生株式であるかSOであるかを使い分けること
  • SOに関する所得税法上などでの取扱いが大きく異なること

などもあり、以下を参考にしていただくと良いかと思います。

  • 取締役
  • 普通株式または無償・税制適格SO
  • 従業員
  • 無償・税制適格SO
  • 監査役
  • 普通株式または有償SO(税制非適格も実例あり)
  • 社外協力者
  • 普通株式または種類株式または有償SO
  • 社外協力法人(資産管理会社含む)
  • 普通株式または種類株式または無償・税制非適格SO(法人税等の税率33%程度)

まとめ

IPOを目指す経営者の方に資本政策作成時において知っておいていただきたいポイントについて簡単に説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。IPOを目指そうとしている経営者の方で課題をお持ちの方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。

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