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役職員への株式やストックオプション(SO、Stock Option)の付与

株式上場(IPO)を目指して、仲間作り、組織作り、役職員へのインセンティブプランなど、どうしていくのがいいのかと考えられている方は多くいらっしゃるかと思います。成長する会社となるためには、優秀な人材が必要不可欠といえ、そのような優秀な人材を集めるためには、経営者の理念や事業に懸ける想いなどが重要となります。

しかし、一方で、現金報酬だけでなく、株式やストックオプションによる報酬等を上手に活用することにより、他社に負けずに、必要な人材を獲得できることが多く見受けられます。そこで今回は、役職員への株式やストックオプションの基本的な考え方やどんなものがあるのかについて説明していきます。

役職員への現金報酬と株式やストックオプションなどの株式報酬の考え方

役職員には、会社に対する貢献に対して、役員報酬や給料などの現金報酬が一般的です。この場合、年齢や役職などに応じて、段階的に昇給し、年に2回の賞与に能力給や業績給などが加算されることが多いです。最終ゴールは、執行役員や取締役になって、報酬を増加させたり、使える経費が増えたりといったところでしょうか。

一方で、IPOを目指す場合には、株式やストックオプションなどの株式報酬を与え、入社のインセンティブや入社後のインセンティブとして、用いることが多くなってきています。上場していない会社には、山っ気のある方も多くいらっしゃるため、会社のポリシーを明確にして、上手に利用できるかを検討すると良いでしょう。

いずれにしても、個々人により、現金報酬を好む方と株式報酬を好む方がいらっしゃるので、両者の期待値とバランスを見ながら、人事評価と報酬体系を組立て、設計していくことが良いでしょう。

ストックオプションの類型

ストックオプションとは、上場申請予定会社やそのグループ会社などの役職員や外部協力者などに、発行時にオプション料を払わない無償のケースと払う有償の場合があり、発行時に決められた価格(行使価格)で対象会社の株式を購入することの権利です。行使することが出来る条件に該当した場合に、行使するかしないかは、ストックオプションを付与された者などが自ら判断することになります。

ストックオプションといっても、いくつかの種類があり、それぞれ特徴や留意すべき事項があります。特に、非上場会社であるか、上場会社であるかが、会社の企業価値の評価方法や額などを含めて、大きな違いがあり、活用事例も異なります。

また、いわゆる、生株と言われる、株式とは根本的に性格を異にするものです。

以下、各ストックオプションの概要や付与された側の税金関係の目安を記載します。

種類上場/非上場付与された側
適格SO○/○個人:譲渡所得20%
非適格SO×/△個人:給与所得MAX55% 法人:法人所得33%
有償SO△/○個人:譲渡所得20% 法人:法人所得33%
信託型SO△/△個人:譲渡所得20%
株式報酬型SO (1円SO)○/×個人:給与所得MAX55%又は退職所得MAX25%
RSU○/×個人:給与所得MAX55%又は退職所得MAX25%

一般的なストックオプション

一般的なストックオプションとは、職務執行の対価として、発行価格は無償、行使価格は付与時の時価で将来、株式と交換することも権利といえます。

このストックオプションの論点は、税制適格となるか、税制非適格となるかに尽きます。

税制適格の場合は、譲渡所得として税率20%程度の課税である一方、税制非適格の場合は、給与所得などとして総合課税として税率MAX55%の課税となるからです。税制非適格となる場合には、個人でストックオプションを付与するのではなく、個人の資産管理会社で付与してもらうケースも見受けられます。以下、税制適格となるための要件とその実務的な留意事項を記載します。

発行要件

新株予約権の権利行使可能期間は、付与決議日の2年経過後から10年経過後まで

新株予約権の付与決議日は、発行決議と実際に対象者に付与した日の2つが考えられますが、実務的には、実際に対象者に付与した日が多く、税務上も問題になりにくいと考えられます。

後述の年間1,200万円の規制がありますが、9年×1,200万円=10,800万円がトータルの権利行使価額のMAXとなります。

新株予約権の1株当たりの権利行使価額は、付与契約締結時の時価以上

通常、普通株式であることから、普通株式の時価以上であれば問題はありません。

普通株式と種類株式を発行している場合には、普通株式の価格がベースになり、双方には価格差が認められます。

「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書」(経済産業省経済産業局長主催。平成23年11月)が参考になる文献であり、以下のURLで公開されており、その中で特筆すべきものは、以下の通りです。

https://www.meti.go.jp/report/
downloadfiles/g111202a01j.pdf

「平均値ではシード・アーリ ー期は 6.68 倍、エクスパンション期が 3.83 倍、レイター期が 2.97 倍であり、IPO に向けて価格差は 縮小傾向にあることが見られた。」

P21

「米国では種類株式と普通株式については、一定の価格差が存在し、二物 二価の発想が定着している。(先述のとおり、種類株式と普通株式の価格差は 10 倍以上あっても許容さ れるという「10 倍ルール」が実務慣習上、一般的なものとなっている。) 」

P23

権利行使価額の要件にかかる「契約締結時の一株当たり価額」以上について
一株当たりの価額に関して、未公開会社の株式については、「売買実例」のあるものは最近において売買 の行われたもののうち適正と認められる価額とすることとされていますが(所得税基本通達 23~35 共- 9(4)イ)27、普通株式のほかに種類株式を発行している未公開会社が新たに普通株式を対象とするストッ クオプションを付与する場合、種類株式の発行は、この「売買実例」には該当しません。(国税庁確認済)

P24

新株予約権の譲渡禁止

新株予約権の発行手続等が会社法上問題のないこと

取得者要件

発行会社とその子会社の取締役・執行役・使用人などとその相続人

  • 監査役は非適格
  • 実務的には、割当契約書で取締役会の承認ある場合などに限定して、相続人は除外しているケースもある
  • 社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大がされていますが、書類の作成の手間がかかるので、準備期間が必要となります

https://www.meti.go.jp/policy/
newbusiness/stockoption.html

付与決議日において、大口株主やその特別関係者でないこと

  • 付与前の株数で判断し、付与後の株数での判断ではありません。
  • 非上場会社:発行済株式総数の1/3以下であれば、OKとなります。
  • 上場会社:発行済株式総数の1/10以下であれば、OKとなります。

権利行使要件

新株予約権の年間の権利行使価額の合計額が、1,200万円を超えないこと

  • 事例としては、ほとんどないと考えられますが、複数社の新株予約権を保有し、行使した場合には、各社毎の判断ではなく、各社の合計で判断します。
  • 1,200万円を超えて権利行使された場合には、1,200万円までは税制適格となり、超えた部分のみ税制非適格となるという取扱いではなく、権利行使全てが非適格となります。

権利行使時には、大口株主に該当しないことなどを記載した一定の書面を会社に提出し、会社で保管

手続要件

発行会社が所轄税務署(税務署長)に新株予約権等に関する法定調書を発行した翌年1月末までに提出

  • 報酬等の法定調書と同様に提出を行う必要があります。

主幹事証券会社等の金融商品取引業者等との保管委託の契約を締結し、事務手続を委託

  • 発行時に必要である訳なく、IPOステージに乗っていれば、主幹事証券会社がつくため、その指示に従うことで足ります。

有償ストックオプション

有償ストックオプションとは、発行価格はオプション料として有償(有価証券)、行使価格は付与時の公正価値で将来、株式と交換することも権利といえます。

このストックオプションの論点は、あくまで有価証券であり、税制適格とか税制非適格との議論はないですが、非上場会社が発行するのか、上場会社が発行するのかがあります。

非上場でも上場している会社でも、第三者機関に発行価格や行使価格を算定してもらうことに変わりはありません。しかしながら、非上場会社であれば本源的価値を時価とすれば、会計上、費用計上の必要性はない一方、上場会社であれば、会計上、公正価値を費用計上することになります。

いずれも税率は、譲渡所得として税率20%程度の課税となります。

過去を思い返すと・・・
ほとんどの方がストックオプションの歴史をご存知ないとは思いますが、20年程前までは、額面に対して1%の新株引受権とした分離型の新株引受権付社債というものがありました。
 
例えば、新株引受権付社債を3億円発行して、その1%を新株引受権として、その会社の経営者などが取得とするというものでした。社債権者が銀行などの信頼性ある会社であり、1%というそれなりのオプション料的な対価を受益者が一定のリスクを取って、自ら支払っていたので、実務的には税務上も問題となることはありませんでした。

信託型ストックオプション

信託型ストックオプションとは、

まず、経営者などの委託者が返済しないことを前提に資金を拠出し、反復継続して業務として行わない無報酬の第三者を受託者に委託します。受託者がこの資金を基に、発行会社から新株予約権を取得し、それ以降の時点で、現在及び将来入社してくる役職員などの受益者に対して、客観的なお手盛りなどを排除した基準で新株予約権を付与するものです。

発行価格はオプション料として有償(有価証券)、行使価格は付与時の公正価値で将来、株式と交換することも権利といえます。

信託型ストックオプションの論点は、

  • 受益者が資金負担しない
  • 受託者は一度しかなることができないため、なり手が見つかりにくい
  • 受託者はボランティアで、無償の役務提供となる
  • リターンを享受する受益者とリスクを負担する委託者とのアンバランス
  • 受益者に配分する客観的基準に恣意性が入り込む余地がある
  • 発行時点では存在しない役職員等を付与対象とすることがそもそもいいのか?
  • 他のストックオプションとの行使価格などに対する考え方とのアンバランス
  • 無償ストックオプションにおいて対象外であった監査役なども対象となり、結果として、同様の効果を得られることになる

なお、税率は、譲渡所得として税率20%程度の課税となります。

上場会社が利用するストックオプション

上場会社が利用する株式報酬型ストックオプション、譲渡制限付株式(Restricted Stock Unite)などがあります。これらは、主に、上場会社が利用するものとなり、証券会社のホームページなどで、詳細な説明がされているので、こちらでは、簡単な説明に留めます。

株式報酬型ストックオプション

株式報酬型ストックオプションとは、1円ストックオプションと言われることもあり、

発行価格は0円、行使価格は発行時の時価ではなく、1円などの低い価格で、将来、株式と交換することのできる権利です。通常は、役員の退職慰労金の代わりに設計され、一定の要件の下に、所得税法上は退職所得として取り扱われることになることが多いです。

譲渡制限付株式(Restricted Stock )

譲渡制限付株式とは、付与時に自己株式か新株発行の形式で生株式を割り当てるものです。一定期間経過後や退職時などの一定の事象が発生した場合に、付与された側の譲渡制限が解除されますが、要件を満たさない場合には株式は強制的に発行体に取得されます。

まとめ

役職員への現金報酬と株式報酬に関して知っておいていただきたいポイントについて簡単に説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

これから起業をご検討している方や法人成りを考えていらっしゃる方、会社が成長ステージに乗ってきて人材の獲得をしていこうと検討している会社で課題をお持ちの方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。

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