長南会計事務所
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ゲーム業界やクラウドサービス業界におけるソフトウエアに関する税務

IT業界においては、Windows2000の発売からオフコン(Office Computer)からパソコン(Personnel Computer)への流れが加速し、2007年のAppleのスマホ(Smart Phone)の発売により常時オンラインの状態となることにより様々なサービスやコンテンツが創出されてきています。

2001年のYahoo!BBによるブロードバンド化が一気に加速し、通信速度が年々飛躍的にスピード化される中、デジタルサービスやデジタルデータがより身近な存在になりつつある現在です。

IT業界においては、元々は、開発着手前に要件定義や詳細設計や開発スケジュールなどをきっちり決定して行うウォーターフォール型の開発が行われており、その業務は第三者発注することが多かったように見受けられます。

現在でも、外部との通信を遮断する閉鎖的にしている金融機関の基幹システムなどは、これによることが多いかと思います。また、ゲームなどのソフトウエアについては、原本を完成させ、これをCDなどにプレスして、コピー(複製)することにより、パッケージソフトウエアとしてハードな制作物を一般消費者に販売することが多かったです。

一方で、IT関連技術の飛躍的な発展により、パソコンによるオンラインゲーム、スマホによるモバイルオンラインゲーム、ソーシャルゲーム、クラウドサービスによる業務管理システムについては、根本のシステム自体を変更できるため、アジャイル型の開発が行われることを見受けられるようになってきました。

また、ゲームなどのソフトウエアについては、オンラインゲームやセールフォース(Salesforce)などの業務管理ソフトであればメールアドレスなどで登録することにより利用したり、スマホであればアプリ(Application Software)をダウンロードすることで利用したりすることが可能となります。

これらは、ソフトウエアの利用権や著作権の使用許諾権が与えられ、利用できるものの、一時的に販売代金を受領するのではなく、当初は無料や低額な料金のみが発生し、月額課金や年額課金、通信料などの重量に応じて課金するなど、様々な販売(課金)の形式があります。

ゲームに至っては、ゲームのダウンロード(DL)は無料で、その後、ゲームに必要なキャラクターや武器などを購入の都度のアイテム課金やゲームを続けるためのライフ(Life)やパワー(Power)などを購入するなど、ゲームユーザーのモチベーションを高める方法によることが多く見受けられます。

この5~10年で、IT業界の環境変化、ソフトウエアサービスに関する技術革新、ビジネスモデルの激変があったにも関わらず、ソフトウエアに関する税務の規定は、2000年の税制改正以降、一部を除き、大きな変更はされていないの現状です。

そこで今回は、ソフトウエアに関する税務の論点の内、オンラインゲームやソーシャルゲームに関するものにスポットライトを当てて、説明していきます。

2000年税制改正以前の税務のソフトウエアの考え方

取得の形態税務会計処理備考
自社制作支出時の損金 
外注・業務委託税務上の繰延資産5年償却

オフコンからの脱却が行われていた2000年以前においては、内製か外注かという、製作方法によって、区分されているだけでした。これは、内製であればそれ程までには収益に貢献しないであろう、外注であればキャッシュアウトを伴うものであるから、それなりのリスクとリターンを求めるものであるから、資産価値がある、というような認識だったように感じます。

したがって、ホームページ制作を外注した場合には、税務上の繰延資産として、長期前払費用などで資産計上され、償却されていくことが見受けられました。現行法では、検索機能がある場合など、一定のものを除き、費用計上が容認されています。

一方で、社内で製作した業務管理システムなどは、支出時に人件費や消耗品費などとして、損金計上されていました。現行法では、自社利用目的のソフトウエアとして、資産計上が要請されています。

2000年税制改正後の税務のソフトウエアの考え方

利用目的税務会計処理備考
市場販売用ソフトウエア3年償却
その他のものソフトウエア5年償却
研究開発用ソフトウエア3年償却
(法令13、54、法基通7-3-15の2~15の3、耐令別表第三、第六)

市場販売目的か自社利用目的か?

市場販売目的か自社利用目的かにより、資産計上の起点が異なり、償却年数が3年であるか5年であるかが異なるので、企業側にとり会計的・税務的・資金的に、少なくない影響が発生します。

ソフトウエアの税務に関する規定は明確でないことから、市場販売用であるか、それ以外かは、公正なる会計慣行に委ねられることになります。

この点、「ソフトウエア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い(企業会計基準委員会 実務対応報告第17号)」において、市場販売目的のソフトウエア取引とは、「不特定多数のユーザー向けに開発した各種ソフトウエアを納品することを目的とする販売やライセンス販売(ライセンスの使用を許諾し使用料を得る契約)をいう。」と定義づけており、参考になるものと思われます。

また、JISA報告書においても、ソフトウエア業界のソフトウエアの資産計上の事例をまとめているので、参考とされると良いかと思います。

ただし、2000年税制改正時においては、市場販売目的となるパッケージ販売のみを想定したであろうところ、その後のITビジネスの発展により、オンラインゲームやクラウドサービスなどが主流となっています。2000年以前に主流であったパッケージ販売では、パッケージという有形の成果物があり、成果物の引渡時に代金を支払うという特性があります。

一方、ソーシャルゲームでは、アプリをスマートフォン内にデジタルデータをダウンロードし、ゲーム開始後に代金を支払うという特性があるものの、時代の流れやライフスタイルの変化などによるものであり、経済的実態などに変化はなく、同義とも考えられます。したがって、ソーシャルゲームなどののアプリ等のライセンスの使用を許諾し使用料を得る契約であり、市場販売目的を否定するものとは言えないとも解することができるものとも思われます。

なお、東京都内の税務署の税務調査官にも口頭でヒアリングしたところ、「納税者の意思決定で決めてもらえば良いと考えますが、税務調査官の個々の趣味や判断で見解が変わることもあるので・・・」とのことでありました。しかるに、納税者側が、経済的実態などにより、自社の判断で一定程度は税務処理することができるものとも考えられます。

しかしながら、ソフトウエアに関する税務の規定が現在の経済実態に即したものに改正されない限りは、クライアントに対しては、自社利用ソフトウエアとして計上した方が税務調査時に論点となることはなくなりますと保守的に意見することになろうかと思います。

オンライゲームなどの開発工程

オンライゲームなどの開発工程は、一般的に、

モック製作

α版(α1やα2などあり)

β版

マスター版

リリース

運用

となっていることが多いです。

市場販売目的である場合には、マスター版からリリースまでの費用を資産計上すれば足りるのは明確となっております。

一方で、自社利用目的である場合には、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなもの以外はソフトウエアとして資産計上されるので、議論の余地があります。

この点、ファーストパーティ、セカンドパーティ、サードパーティなどのビジネススキームにより判断は分かれることになるとは思いますが、開発の実態や収益獲得の不確実性を検討して、マスター版より前の段階以降のどこかのタイミングをソフトウエアとして資産計上するという判断をすることになろうかと思います。これについては、社内会議や取締役会などで会社としての意思決定を明記しておくことが望ましいと思われます。

まとめ

オンラインゲーム業界のソフトウエアに関して知っておいていただきたいポイントについて簡単に説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

ソフトウエア開発を行おうとされる会社、ここでは書ききれていない実情をお知りになりたい会社、開発期間を終えゲームタイトルをリリースし絶好調になりそうな会社で課題をお持ちの方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。

御参考:ソフトウエアに関する税法上の主な規定

【法人税法】

第2条23号(定義)

二十三 減価償却資産建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。

【法人税法施行令】

第13条(減価償却資産の範囲)

第十三条 法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

  • 八 次に掲げる無形固定資産
  • リ ソフトウエア

(減価償却資産の取得価額)

第五十四条 減価償却資産の第四十八条から第五十条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した減価償却資産次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

二 自己の建設、製作又は製造(以下この項及び次項において「建設等」という。)に係る減価償却資産次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額

ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

※5号と6号は割愛しています。

【法人税法基本通達】

5-1-4
(製造原価に算入しないことができる費用)

次に掲げるような費用の額は、製造原価に算入しないことができる。

  • (6) 複写して販売するための原本となるソフトウエアの償却費の額

7-1-8の2
(研究開発のためのソフトウエア)

法人が、特定の研究開発にのみ使用するため取得又は製作をしたソフトウエア(研究開発のためのいわば材料となるものであることが明らかなものを除く。)であっても、当該ソフトウエアは減価償却資産に該当することに留意する。(平12年課法2-19「七」により追加、平20年課法2-5「十二」により改正)

(注) 当該ソフトウエアが耐用年数省令第2条第2号に規定する開発研究の用に供されている場合には、耐用年数省令別表第六に掲げる耐用年数が適用されることに留意する。

7-3-15の2
(自己の製作に係るソフトウエアの取得価額等)

自己の製作に係るソフトウエアの取得価額については、令第54条第1項第2号の規定に基づき、当該ソフトウエアの製作のために要した原材料費、労務費及び経費の額並びに当該ソフトウエアを事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額となることに留意する。

この場合、その取得価額については適正な原価計算に基づき算定することとなるのであるが、法人が、原価の集計、配賦等につき、合理的であると認められる方法により継続して計算している場合には、これを認めるものとする。(平12年課法2-19「八」により追加)

(注) 他の者から購入したソフトウエアについて、そのソフトウエアの導入に当たって必要とされる設定作業及び自社の仕様に合わせるために行う付随的な修正作業等の費用の額は、当該ソフトウエアの取得価額に算入することに留意する。

7-3-15の3
(ソフトウウェアの取得価額に算入しないことができる費用)

次に掲げるような費用の額は、ソフトウエアの取得価額に算入しないことができる。(平12年課法2-19「八」により追加)

  1. 自己の製作に係るソフトウエアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
  2. 研究開発費の額(自社利用のソフトウエアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限る。)
  3. 製作等のために要した間接費、付随費用等で、その費用の額の合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの

7-7-2の2
(ソフトウエアの除却)

ソフトウエアにつき物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、次に掲げるように当該ソフトウエアを今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、当該ソフトウエアの帳簿価額(処分見込価額がある場合には、これを控除した残額)を当該事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(平12年課法2-19「九」により追加)

  1. 自社利用のソフトウエアについて、そのソフトウエアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合、又はハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウエアを利用することになり、従来のソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合
  2. 複写して販売するための原本となるソフトウエアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合

7-8-6の2
(ソフトウエアに係る資本的支出と修繕費)

法人が、その有するソフトウエアにつきプログラムの修正等を行った場合において、当該修正等が、プログラムの機能上の障害の除去、現状の効用の維持等に該当するときはその修正等に要した費用は修繕費に該当し、新たな機能の追加、機能の向上等に該当するときはその修正等に要した費用は資本的支出に該当することに留意する。(平12年課法2-19「十」により追加)

(注) 既に有しているソフトウエア、購入したパッケージソフトウエア等の仕様を大幅に変更して、新たなソフトウエアを製作するための費用は、原則として取得価額となることに留意する。

【減価償却資産の耐用年数等に関する省令】

別表三 無形減価償却資産の耐用年数表

  • ソフトウエアー複写して販売するための原本ー3年
  • ソフトウエアーその他のものー5年

別表六 開発研究用減価償却資産の耐用年数表

  • ソフトウエアー3年

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