長南会計事務所
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節税対策(小規模企業共済と経営セーフティ共済)

我社も当期で3期目、初年度より売上も着実に伸び、利益が出たからそれなりに税金を払うことになるんだろうけど、将来に向けた節税対策は何かないだろうか?

そんなお悩みを持つ経営者や個人事業主の方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかしながら、最近の税制改正により、海外不動産を活用した投資と節税策、生命保険を活用した資産運用と節税策などは、次々に封じ込まれております。

そこで今回は、小規模企業経営者や個人事業主向けの資産保全を主目的ではあるもの、節税対策の一つともなる、小規模企業共済と経営セーフティ共済(倒産防止共済)について説明していきます。

制度の趣旨

 小規模企業共済経営セーフティ共済(倒産防止共済)
制度の趣旨小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための積み立てによる退職金制度取引先事業者が倒産した際に、自社が連鎖倒産や経営難に陥ることがないよう無担保・無保証人で事業資金を借り入れできる制度

小規模企業共済は、個人で掛金を積み立て、将来の退職金に備える制度である一方、経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、法人の経費及び個人事業の必要経費として掛金を支払い、自社の危機を回避するための事業資金の借入制度です。

加入資格・加入業種

小規模企業共済

加入資格 個人(法人役員・個人事業主)
加入業種常時使用する従業員数
建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)
不動産業、農業
20人以下
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)5人以下
企業組合・協業組合20人以下
農業組合法人20人以下
弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員5人以下
その他上記建設業等・商業等に携わる共同経営者建設業等・・20人以下
商業等・・・5人以下

経営セーフティ共済(倒産防止共済)

加入資格

法人又は個人事業主

加入業種 資本金の額又は出資の総額 常時使用する従業員
製造業、建設業、運輸業その他の業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下
ゴム製品製造業※1 3億円以下 900人以下
ソフトウェア業及び情報処理サービス業 3億円以下 300人以下
旅館業 5,000万円以下 200人以下

※1:自動車又は航空機用タイヤチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く。

上記の通り、両者は、加入資格に違いがあります。小規模企業共済は個人名義でしか加入できない一方、経営セーフティ共済(倒産防止共済)は法人名義又は個人事業主名義で加入することになります。

自分が経営している事業だから加入業種は分かっているつもりだけど、加入前に詳細を窓口に確認してみるのもよいかと思われます。

ただし、経営セーフティ共済(倒産防止共済)の加入業種の注意点といえば、不動産貸付業のみを営む個人事業主は加入対象外であること。不動産貸付業を営む法人であれば加入業種として問題はないということになります。

(参考):小規模共済

(参考):経営セーフティ共済

加入時の税務上の取り扱い

項目小規模企業共済経営セーフティ共済(倒産防止共済)
掛金の金額掛金月額1,000円~7万円までの範囲内(500円単位)で自由に選択 (年額最大84万円まで)掛金月額5,000円~20万円までの範囲内(5,000円単位)で自由に選択 (年額最大240万円まで)
掛金の増減額増額・減額可能であり、年払い(前納)も可能増額・減額可能であり、年払い(前納)も可能
掛金の上限掛金総額に上限なし掛金総額800万円に達するまで
税区分個人:所得税法法人:法人税法
個人事業主:所得税法
税務上の扱い掛金全額が個人の所得控除法人:法人の経費
個人事業主:個人必要経費
税務上の仕訳年末調整時・確定申告時に所得控除として記載する
個人事業の複式簿記の仕訳 事業主貸84万/預金84万  
法人の費用処理時の仕訳
①保険積立金240万/預金240万

法人税申告書別表四で減算処理
②保険料240万/預金240万  

個人事業の必要経費の仕訳 保険料240万/預金240万  

そうなんです。

小規模企業共済は、あくまで個人のお財布から共済掛金を支払い、毎年10月初旬に葉書サイズの『小規模企業共済掛金等控除証明書』が自宅に届き、年末調整時や確定申告時に所得控除として記載するべきものということが分かります。

経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、小規模企業経営者であれば法人口座から掛金を保険料として費用計上でき、個人事業主であれば個人事業口座から保険料として必要経費計上できるものです。

解約時の税務上の取り扱い

項目小規模企業共済経営セーフティ共済(倒産防止共済)
解約請求事由  ①共済金A
②共済金B
③準共済金
④解約手当金   
①任意解約
②みなし解約
③機構解約
注意点①上記4、解約手当金のち、任意解約した場合には、掛金納付月数が240カ月(20年)未満の場合、元本割れする。掛金納付月数が40カ月未満の場合、元本割れする。
税区分個人:所得税法
個人:相続税法
法人:法人税法
個人事業主:所得税法

税務上の扱い(小規模企業共済)

[退職所得扱い]
・共済金又は準共済金を一括で受け取る場合

・65歳以上の方が任意解約をする又は65歳以上の共同経営者が任意退任をする場合

  [公的年金等の雑所得扱い]
・共済金を分割で受け取る場合  

[一時所得扱い]
・65歳未満の方が任意解約をするまたは65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合

・12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合

  [(相続税法上)みなし相続財産]
・遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金)

税務上の仕訳(小規模企業共済)

[所得税確定申告時]
・退職所得
・雑所得
・一時所得  

[相続税申告時]
・相続財産(死亡退職金)  
個人事業の複式簿記の仕訳
預金1,680万/事業主借1,680万  

ポイント
個人の所得となり、共済契約者の現況や解約金請求事由によりそれぞれの所得の種類が異なる。
確定申告時の所得の種類を間違わないように慎重に判断する必要性がある。

税務上の扱い(経営セーフティ共済(倒産防止共済))

法人:法人の収益
個人事業主:事業所得

税務上の仕訳(経営セーフティ共済(倒産防止共済))

法人の解約時の仕訳
預金800万/雑収入800万  

個人事業の解約時の仕訳
預金800万/収入800万

ポイント
掛金の総額が掛金月額の40倍(40ヶ月・最大800万円)に達した後、掛け止めができ、解約時期を選べるが、法人の場合は全額収益、個人事業主の場合は、事業所得の収入に計上され法人税又は所得税が課税される。  

・法人及び個人に共通して言えることは、赤字が多額に出そうな時期に解約すること。
・法人の場合、退職金の支給額に充当すること。  

預金800万/雑収入800万 退職金800万/預金800万
解約時期を慎重に判断する必要性がある。

ここで注意していただきたい点があります。

小規模企業共済は解約手当金のうち、任意解約の場合は元本割れが生じ、経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、掛金納付月数が40カ月未満の場合、元本割れしてしまいます。したがって、加入の際には、少なくても、4年程度は継続して、掛け金を払い込めるかを考えておいた方よろしいかと思います。

また、小規模企業共済は、解約請求事由により所得の種類(退職所得・雑所得・一時所得)になること、遺族が受け取ったら、みなし相続財産として相続税の対象になることなど知らなかったということがあるので、注意が必要です。

一方、経営セーフティ共済(倒産防止共済)の解約時には、法人も個人事業主も収益(収入)になり、法人税や所得税が課税されてしまうので、解約のタイミングや解約時におけるの節税も慎重に判断しなければなりません。

法人であれば、繰越欠損金がある場合にはそれとぶつけて相殺するとして、それ以外であれば、解約と同時期に役員に退職金を支払うことなどが一般的かと思います。

中小機構からの貸付制度について

小規模企業共済の貸付金の種類

  • 一般貸付
  • 緊急経営安定貸付
  • 傷病災害時貸付
  • 福祉対応貸付
  • 創業転業時・新規事業展開等貸付
  • 事業承継貸付
  • 廃業準備貸付

経営セーフティ共済(倒産防止共済)の貸付金の種類

共済金
取引事業者が倒産した際売掛金や債権などの回収 が困難になった際の事業資金を借り入れる制度
一時貸付
取引事業者が倒産していなくても臨時に事業資金 を必要としている場合に解約金の95%を上限として借り入れできる制度

いくら経営が安定し始めたとはいえ、このような貸付制度があることは、不測の事態を回避する防止策に一つとなります。経済産業省を主務官庁とし、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営であるため信頼度も高いと考えられます。

経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、制度の趣旨からも事業資金の借入が出来ることは理解できるけど、小規模企業共済についても借入制度があるんです。

生命保険金についても、契約者貸付制度があるので、それと同じようなものといえます。

まとめ

今回は、節税対策と題して小規模企業共済と経営セーフティ共済(倒産防止共済)について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。小規模企業共済も経営セーフティ共済(倒産防止共済)も節税対策ではなく、課税の繰り延べでは?というご意見もあるのではないでしょうか。

それぞれの制度の内容を十分理解し、適切な判断により、法人税の所得800万円を境とする税率差異、特に所得税の超過累進税率などの税率差異なども考えると、節税効果は得られるものと考えております。

そんなお悩みを持つ経営者や個人事業主の方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。

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