個人事業主の方や中小企業の経営者の皆様にとっては、利益を計上することに心血を注いでおられると思いますが、そうして稼いだ利益に対する税金の負担を少しでも軽減させたいという思いはごく自然なものだと思います。
個人であれば超過累進課税によりMAX55%の税負担率、法人でも所得800万円の壁を越えると税負担率がグッと増えます。
こうした中、納める税金を減少させる方法などには様々なものが有ります。
ただし、合法的なものは①「節税」となる一方で、非合法的なものは②「脱税」③「租税回避」となります。
今回は、①「節税」②「脱税」③「租税回避」の違いについて解説していきたいと思います。
「節税」とは、法律が想定していて認めている範囲内で納税額を減少させる行為です。
たとえば、
などがこれに該当します。
また、それ以外にもいくつかの特別償却や税額控除の特例が認められています。
これらは税務的に何らの問題なく、納税額を減少させる方法ですので、顧問税理士等に相談して、計画を立てながら活用出来るものは大いに活用していただければと思います。
「脱税」とは、違法な手段を用いて、恣意的に納税額を減少させる行為です。
たとえば、
などが該当します。
「脱税」は犯罪行為であり、税務調査等で発覚した場合は、重加算税など重いペナルティーが課されます。
また、より悪質であると判断された場合は刑事事件となり、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金またはこれを併科される可能性が有ります。
「租税回避」とは、法律が想定していない手段で納税額を減少させる行為です。
「タックスヘイブン(Tax Heaven)を利用しての租税回避」など様々な手法が用いられています。
有名なところでは、
ケイマン諸島、バージン諸島、パナマ、バミューダ、香港、シンガポール、オランダなどがあります。
税務調査時においては、これらの名前が出てくると、調査の深度も深まるような印象を受けます。
これらは、各国間の税法の隙間を狙った、通常は行わないような不自然な取引や商流などを用いて、法律の隙間などを突くことにより、恣意的に納税額を少なくする行為ですが、法律違反ではありません。
このため、新たな租税回避の手法が出来るとそれを否認する為の個別否認規定が設けられるということが繰り返されています。
国税庁としても、「税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)」については、金額的にも大きく、資金が国境を越える取引のため、「BEPSプロジェクト」として、要注意として、マークしています。
税務調査が入った場合、
「節税」行為は、合法なので当然認められます。
「脱税」行為は、違法なので否認されます。
では、「租税回避」行為は、法律違反ではないので認められるのかには、論点があります。
中小企業の場合には、「租税回避」行為は否認されることがあり得ます。
こちらについては、国境を越えた取引でなく、法人税法第132条に「同族会社等の行為又は計算の否認」、法人税法第132条の2に「組織再編成に係る行為計算の否認」という規定が存在します。
この規定には、同族会社等が行った行為や計算で、法人税の負担が「不当に減少」した場合、税務署長はこれを否認出来るという内容が記載されています。
新たな租税回避の手法が出来るとそれを否認する為の個別否認規定が設けられると前述しましたが、個別的ではなく、取引全体を通して包括的に「租税回避」行為を否認出来る規定も存在します。
これらは、本来、伝家の宝刀として、あまり抜かれることはありませんでしたが、
法人では、
などでは、その後の税制改正の契機にもなりましたが、大きな訴訟事件としてクローズアップされました。
同様の規定は、所得税法や相続税法にも存在します。
などがあります。
「通常は行わない不自然な取引を用いて」法人税額を「不当に減少」させたと判断された場合は、税務調査で否認されるリスクが高まります。
税務否認リスクを下げるためには、経済的な合理性だけではなく、事業の合理性が求められ、その「合理的な理由付け」があることが必要不可欠となります。
たまに、
「先生、こんな節税策があるんですよ!すごいでしょ!」
と、YouTubeなのか、その辺の書籍でも読んできたのか、はたまた、経営者の集いで聞きかじってきたのか、色めき立って話してくる経営者の方がいます。
それは、たとえば
「中小企業だと、年800万円を超える交際費は税務上の損金にすることができるけど、複数の会社を設立することにより、損金となる交際費を増やすことができるんだから、教えて下さいよ。」
や
「他の会社に外注費を払って経費にして、その会社を飛ばせば(倒産)させれば、税務署もおってきませんよ。すごい先生がいるんですよ。」
とかがありました。
前者であれば、
事業が全く異なる場合、事業のエリアが異なる場合、従業員の雇用条件が異なる場合などに、別法人を設立することは、事業合理性があり、何らの問題もないと考えます。
一方で、同じエリア・業種で、同一の代表者の法人を新たに設立して、交際費を分散させた場合には、「通常は行わない不自然な取引」で法人税額を「不当に減少」させたと判断され、否認されるリスクはあり得ると考えます。
後者は、その数年後、芋づる式に発覚していました。
こうした取引などは、同族会社である場合には、お手盛り的に進めることができ、また、グループ会社も同様であり、税務調査時に問題になりやすいです。
昔、尊敬する上司が、監査の仕事をしている時に、
「少しおかしいは、すごくおかしい。」
と仰ってました。
当時は、「まあ、確かにな」とは思ってましたが、
「やっていいことと、悪いことがある。自分の胸に手を当てて、少し考えてみる。」
ことが大切だなと感じています。
税務調査でも鎌をかけてくることもあるので、納税者側でも予め真摯に備えておくことが必要と感じております。
今回は「節税」「脱税」「租税回避」について解説させていただきました。「租税回避」行為は法律違反ではありませんが、税務調査で否認されるリスクがあり得ることがお分かりいただけたかと思います。「租税回避」行為に関する規定はこの他にも様々なものが存在します。もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問合わせください。