クライアントの経営者の方々から、次のようなお話をいただくことがあります。
「設備投資したから、会社のお金は減ったのに、税金が減らない!」
「決算に向けて利益が出そうなので、設備を早めに買ったんだけど、思ったほど税金が減らない・・・」
「当期に買った車の購入費用は、なんで、そのまま経費にならないの?」
「ポルシェやフェラーリで節税って聞くけど、本当にそんなことが出来るの?」
「スマートフォンとかパソコンみたいに、経費になんでできないんだろう?」
「絵画って経費になるんだろうか?」
同じような疑問をもたれた方も多々おられるかと思います。今回はこれらの疑問に対する答えとも言える「減価償却」について説明していきます。
減価償却とは、建物や車両といった資産を取得した金額について、それぞれの資産毎に想定される使用可能期間にわたって分割して費用計上していく会計処理となります。言い換えれば、資産を一度に費用とするのではなく、使った分や資産の価値が減少したと考えられる部分について、事業年度毎に費用計上していくことになります。
一番分かりやすいのは車輛でしょうか。一回乗っただけでは車の価値は0円とはならず、数年後でも十分走れるだけの価値があれば、中古車として値段がつきます。この際に、「新車として買った値段と中古車として売れた値段の差額(=資産の価値を消費した分)」をその想定される使用期間である、耐用年数で分割して費用と会計処理することが、減価償却という手続です。
さらに言えば、使われて価値が減少した分を当初購入した新車の値段(=価値)から減らしていく手続とも言えるでしょう。
なお、減価償却により資産の価値減少分を計上するための費用を「減価償却費」と言いますが、これは税務上一定の制約において経費となります。(法人税法第31条)
そのため、「減価償却」は会社の資産(貸借対照表)、損益(損益計算書)、資金繰り(キャッシュフロー)、税金のすべてに影響する経営上重要な要素と言えます。
次に減価償却の実際の手続を見ていきましょう。
まずは対象です。会社が購入した資産がすべて減価償却の対象となるか、と言えば、そうではなく、減価償却の対象外となるものがあります。
減価償却の対象外となる資産
非償却資産 | 土地など使用により価値を減じる性質を持たないもの。 |
10万円以下の資産および使用により1年以内に資産価値がなくなるもの | 購入した期で全ての価値を使い切るもの。 購入金額が少額なため、減価償却をするほどの価値がないもの。 |
この他にも、税制上減価償却の対象としなくてもよいものもあります。
減価償却費の計算方法としては、定額法・定率法・交換法などいくつかの方法がありますが、ここでは代表的な減価償却方法である、定額法と定率法という2つの方法について説明します。
この項で使用する用語
取得価額 | 減価償却の対象となる資産と、それを事業に供するまでに発生した費用の合計額。 ただし、租税公課(自動車取得税など)等取得価額に含めず、費用として計上することが認められるものもあります。 |
耐用年数 | その資産が使用できると見積もれる期間の年数 その資産の内容によって決定されます。 |
償却率 | 減価償却費を計算する上で使用される比率 減価償却方法と年数により決定されます。 |
償却基礎額 | 償却計算の基礎となる計算上の資産価額 |
残存価額 | 取得価額からそれまでに計上した償却費を控除した残価 |
では、実際に資産の取得から減価償却費を計算するフローをたどってみましょう。
上述のように、耐用年数は、取得した資産の内容によって決定されます。法人税の計算で使用される耐用年数(法定耐用年数といいます)は、国税庁より詳細に公表されております。
以下のように、資産毎、構造・用途毎、細目により、個々に耐用年数が設定されておりますが、実態に応じて判断することが必要となります。
①「建物」「建物付属設備」「器具備品」などの固定資産の種類
↓
②構造・用途
↓
③ 細目
↓
④ 該当細目の右側の年数が耐用年数
次に償却率を決定します。
こちらも同じく定額法・定率法それぞれの償却率が国税庁より公表されています。
こちらは細かい数字が並んでいますが、資産の種類ごとに定められた償却方法と取得期間、耐用年数から、償却率と関連する料率を確認することが出来ます。
(定額法)
① 旧定額法・定額法の償却率表
↓
② 耐用年数 5年
↓
③ 平成19年4月1日以降取得
↓
④ 定額法償却率 0.200
(定率法)
① 旧定率法・定率法の償却率表
↓
② 耐用年数 5年
↓
③ 平成24年4月1日以降取得
↓
④ 定額法償却率 0.400
改定償却率 1.000
保証率 0.10800
※改定償却率と保証率については後ほど説明します。
必要な料率を求められましたので、二つの償却方法それぞれの償却費の計算をしてみましょう。
例として、法定耐用年数が先程と同じく5年、取得価額が500万円の資産で計算をしてみます。
今回説明する、「定額法」と「定率法」の減価償却費は、次の式で求めることが出来ます。
この計算式は、2つの償却方法で同じに見えますが、償却基礎額にどの価額を用いるかという点に違いがあります。
定額法では償却基礎額に「取得価額」を用います。そのため、最初の式は次のように書き換えられます。
取得価額は変わらないため、減価償却額も償却を行う全期間で一定となります。
実際の計算は次の通りとなります。
定額法償却率 0.200
年数 | 償却費 | 償却基礎額 | 償却費の計算式 | 残存価額 |
1 | 1,000,000 | 5,000,000 | 5,000,000×0.200=1,000,000 | 4,000,000 |
2 | 1,000,000 | 5,000,000 | 5,000,000×0.200=1,000,000 | 3,000,000 |
3 | 1,000,000 | 5,000,000 | 5,000,000×0.200=1,000,000 | 2,000,000 |
4 | 1,000,000 | 5,000,000 | 5,000,000×0.200=1,000,000 | 1,000,000 |
5 | 999,999 | 5,000,000 | 5,000,000×0.200=1,000,000 | 1(※1) |
※耐用年数が経過した際に、資産があることを認識するために少額の金額を残します。
これを「備忘価額」と言います。
定率法では、前期までの残存価額を償却基礎額として償却費を計算します。このため定率法の償却費は初年度が最大となり、徐々に減少していくことになります。計算式としては、次の通りとなります。
ここで「それじゃ、いつまでたっても償却しきれないじゃないか」と思った方は鋭いです。「残存価額×償却率」で計算していくと、耐用年数では1円になるまで償却することが出来ません。そのために、定率法では改定償却率と保証率という料率を設定しています。「残存価額×償却率」で計算した償却費が、「取得費用×保証率」の金額を下回った場合、以後の年数は「下回った年度の前の年度の残存価額×改定償却率」で計算していきます。途中からは定額法的な計算に切り替わるということですね。実際には、減価償却費のソフトを利用するので、チェックしやいのですが。
定額法償却率 0.400
改定償却率 1.000
保証率 0.10800 → 5,000,000円×0.10800=540,000円
⇒償却費が540,000円を下回ったら計算方法を切替します。
では実際の計算を見ていきましょう。
年数 | 償却費 | 償却基礎額 | 償却費の計算式 | 残存価額 |
1 | 2,000,000 | 5,000,000 | 5,000,000×0.400=2,000,000 | 3,000,000 |
2 | 1,200,000 | 3,000,000 | 3,000,000×0.400=1,200,000 | 1,800,000 |
3 | 720,000 | 1,800,000 | 1,800,000×0.400=720,000 | 1,080,000 |
4 | 432,000 | 1,080,000 | 1,080,000×0.400=432,000 | 648,000 |
5 | 647,999 | 648,000 | これまで通りの計算であれば 648,000×0.400=259,200 となりますが、保証率を使った計算額を下回ったので、計算方法を切り替えます。 648,000×改定償却率1.000 =648,000 ここから備忘価額1円を残すため、647,999円にします。 |
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初年度に限れば定率法での償却額は定率法の2倍となり、計算方法の性質がお分かりいただけるかと思います。
今回は減価償却の前半として、「減価償却という概念とその計算方法」について簡単に説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。「設備投資をしたのに税金が減らない!」という疑問に対するお答えが多少なりともできたのではないかと思います。
後半では、税金と減価償却の関係、税務上の特例等についてご説明させていただきます。
減価償却は会社の投資計画・財務計画と密接にリンクし、時には会社の存続も左右します。
課題をお持ちの方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。