長南会計事務所
TEL:03-3871-5550

非居住者への貸付金利子の源泉徴収義務

国税庁等は、ここ数年、富裕層である個人、日本の所得を海外に飛ばそうとする企業への監視を強めています。

特に、資産が100億円を超えるなどの超富裕層が香港やシンガポール等の有価証券譲渡益に対するキャピタルゲイン課税がない国、所得税が低い国、はたまた、相続税がない国に移住するケースが多く見受けられます。

これらは、税金面だけを目的として移住することもありますが、最近ではグルーバルなビジネス展開や御子息の教育の観点などから、移住をされるケースも見受けられます。ただ、低課税国への移住は、国税庁等からすると、何らかのイベントがあると感じることもあるのではないかと思われます。

2015年7月1日から、以前、NHKのテレビでもありましたが、財産を日本からケイマン諸島やバージン諸島などを転々と経由して、その全容を分かりにくくするという、「キャピタルフライト」することが少なからずあったこと、香港やシンガポールへの移住が増えたことなどから、「国外転出時課税制度」が設けられました。

具体的には、有価証券を1億円以上保有する者などを対象に、その有価証券の実現していない含み益に対して、20%ではなく、15%の所得税を課すことになっています。住民税分の5%はかからないものの、Cash化されていない含み益に対しても課税されてしまいます。

また、出国前に納税管理人を設置することなどにより、納税猶予制度を採用することができますが、一定の手続が必要となっています。

これらは、富裕層が日本から海外などの低課税国に財産を持ち出し、税金を逃れようとする者に対する措置で、年々、相続税だけでなく、法人税や消費税なども締め付けが厳しくなることはあっても、緩くなることはないでしょう。

富裕層に対する課税強化の総論は上述の通りですが、今回は、ニッチなテーマとなりますが、企業側では認識していないことも多く、また顧問税理士でも失念してしまうことが多く見受けられ、源泉徴収漏れの税額が比較的多額に及び可能性があります。

そこで、今回は、非居住者への貸付金の利子について説明していきます。

居住者と非居住者の課税関係と源泉徴収義務

大原則として、非居住者への課税は、国内源泉所得に限定され、国外源泉所得には課税されません。また、日本と租税条約があるか否かにより、源泉徴収額が免除又は軽減されるかに影響を与えます。

日本国居住者への貸付金利子の課税関係については、その者が貸金を事業として行っているか否かにより異なります。

事業としての貸付に関する利子
事業所得として、総合課税
その他の貸付に関する利子
雑所得として、総合課税

一方で、非居住者への貸付金利子の課税関係は、貸付を受けた側の資金使途により、異なります。

国税庁のホームページでも明記されている通り、

(8) 国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の利子で国内業務に係るもの

国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2878.htm

国内源泉所得の限定列挙されるものに該当する場合のみ、原則として、貸付金利子を支払う企業が源泉徴収されることになっており、これらに該当しない場合には、源泉徴収義務はありません。

ただし、解釈の仕方によっては、源泉徴収義務ありとなるケースも源泉徴収義務なしとなるケースも想定されますが、グレーな場合においては、安全を見て、源泉徴収しておくことが望ましいと考えられます。

業務に対する利子
貸付金利子を支払う企業が源泉徴収して、課税関係終了
業務以外に対する利子
課税関係なし

国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の解釈

たとえば、金銭消費貸借契約書では、単なる貸付金であるものの、借り受けた者が明らかに業務(事業)に資金を投下している場合はどうなるのでしょうか?大半のケースでは、契約書で資金使途を明記していることは稀であり、全体を俯瞰しないと判断できないだろうと思われます。

ただ、貸付金や貸付金利子の多寡により、税務署にチェックの目が粗くなったり、細かくなったりするであろうとは思われます。

この点、国税庁等にもある程度の前提を置きつつ、問い合わせたところ、「事実認定の問題であり、調査官により判断が分かれるかもしれないが、源泉徴義務ありであろう」とのことでした。

源泉徴収されなかった場合の貸し付けた債権者である非居住者はどうすれば?

源泉徴収義務は、あくまで、借り受けた債務者であり、非居住者は何らのアクションを起こす必要はありません。ただし、任意で納税することも裏技的にできるようです。

したがって、順法意識の高い方については、債務者に源泉徴収義務があることを通知し、実行してもらうことが望ましいと思われます。

(顧問税理士によっては・・・)

源泉徴収義務があることを失念していて、加算税などが課されること、債権者から源泉徴収税額を回収できない可能性もあり、臭い物に蓋をすることもあるようです。

いずれにしても、クロスボーダー取引については、取引実行前に、課税関係として、源泉徴収義務の有無を確認することが必要と思われます。

まとめ

かなりニッチなテーマである、非居住者への貸付金利子の源泉徴収義務に関して知っておいていただきたいポイントについて簡単に説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

事業が成長軌道に乗ってきた時に、海外居住の富裕層などから出資や融資を受けようとする会社や海外展開していて海外との取引がある会社で課題をお持ちの方・もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ当会計事務所へお問い合わせください。

Mail magazin